やさしい美術プロジェクト+山川冬樹
大島音景ー君の骨を拾い終りぬ波音聞ゆー

会期 2017.2/27~ 2018.3/31(2017.3/31までは平日のみ公開)
時間 10:00~20:00
※本作品は1ヶ月ごとに音景が更新されます

ハンセン病はらい菌(※1)による感染症で、その外見から人類史上古くから恐れられ忌み嫌われてきた。 ことに日本では国の誤った政策のもと、患者は強制隔離され、差別はその家族にまでおよんでいる。
 国立療養所大島青松園。瀬戸内の「大島」である。全国13カ所あるハンセン病療養所のうち唯一の離島で、 青松白砂が美しい小島ほぼ全域が療養所であり、今も60名ほどの入所者(※2)が暮らしている。
 ある時、私たちはここ大島でカセットレコーダーに差し込まれたままになっていたテープを発見した。 「94年6月斎木作歌メモ」と記されたそのテープには盲目の歌人、斎木創の声が録音されていた。 くりかえし歌を詠む声は発した先から切開した喉元で漏れてしまい言葉に至らない。 しかし、何もかも剥ぎ取られたその声には、自らの命の証をこの世界に在らしめんとする意志だけが結晶化して遺されていた。
 大島には人間の生の営みすべての原点がある。私たちは辺境の島で燃えるその炎(ほむら)をすくいとり、この国の中心へそっと差し出したいと思う。

ふるさとのありて帰れぬ君の骨を拾い終りぬ波音聞ゆ

 同じく大島の歌人、政石蒙の歌である。かつてこの島では断種・堕胎が行われ、入所者は子を持つことが許されなかった。 後世が断たれ、近い将来この島は誰もいなくなるのかもしれない。それでもこの波音はずっと絶えることなく島の記憶を語り続けるだろう。

大島音景アーカイヴ・サイト
https://www.oshima-on-k.com

※1 らい菌は極めて感染力が弱く、現在は治療法も確立し完治する。
※2 現在、療養所で暮らす入所者は全員ハンセン病が完治している。

髙橋 伸行 山川 冬樹
写真:鳥栖 喬

山川冬樹(現代美術家/ホーメイ歌手)

1973年ロンドン生まれ。自らの声・身体を媒体に視覚、聴覚、皮膚感覚に訴えかける表現で、音楽 / 現代美術 / 舞台芸術の境界を超えて活動。 己の身体をテクノロジーによって音や光に拡張するパフォーマンスを得意とし、歌い手としては日本における南シベリアの伝統歌唱「ホーメイ」の名手として知られる。 活動の範囲は国内にとどまらず、これまでに15か国でパフォーマンスを上演。 また現代美術の分野では、声と記憶をテーマにしたインスタレーション『the Voice-over』(2008年/東京都現代美術館蔵)や、 「パ」という音節の所有権を、一人のアートコレクターに100万円で販売することで成立するパフォーマンス、『「パ」日誌メント』(2011〜現在)などを発表。 ハンセン病療養所(瀬戸内国際芸術祭2016/大島青松園)や帰還困難区域(Don’t Follow The Wind展/グランギニョル未来のメンバーとして)での長期的な取り組みもある。 2015年横浜文化賞 文化・芸術奨励賞受賞。

髙橋伸行(アーティスト)

1967年愛知県生まれ。2002年に「やさしい美術」を設立。 これまでに療養型病院や急性期病院のほか、緩和ケア病棟や老人福祉施設などでプロジェクトを展開する。 水と土の芸術祭2015では、新潟水俣病に深く関わる地蔵と共に阿賀野川を遡上する旅を敢行し、作品「旅地蔵−阿賀をゆく−」を発表した。 瀬戸内国際芸術祭では、国立(ハンセン病)療養所大島青松園にてガイドツアーとカフェ、ギャラリーが連携する取り組み{つながりの家}を実施。 2013年に大島青松園の入所者で表現者の鳥栖喬(とすたかし/故人)を襲名。瀬戸内国際芸術祭2016では鳥栖の遺したフィルムやドローイング、 後遺症を補う自助具などを受け継ぎ、インスタレーション「ひたすら遠くを眺める」を展開した。